Twilight

一息つきたいあなたへ。

ニューヨークで胃腸炎にかかり、1人で寝込んでいた話

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去年の冬のこと。わたしは突然胃腸炎にかかり、ニューヨークでひとり寝込んでいた。

当時、わたしは1ヶ月ほどかけ、アメリカを旅していた。ニューヨーク独特の凍えるような寒さのなか(余談だが、ニューヨークの緯度は青森市とほぼ同じである)、異国のよくわからないスポドリを枕元に置き、ひとりで貧乏ゲストハウスに横たわっていた。

それはあまりにも辛く、心細いものであった。

これまでにも海外はよく旅していたのだが、はじめて、心の底から日本へ帰りたいと思った。

 

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泊まっていた部屋。熱を出す前日まで、下のベッドには猫がいた。

もはや修行である。

いや、そもそも胃腸炎にかかる前から、修行は既にはじまっていた。

下のベッドには前日まで宿泊客がいたのだが、彼女は宿に秘密でネコを連れてきていた。動物が苦手なわたしは、毎日知らないネコにおびえ、フンを踏まないように床をおそるおそる歩いていた。

それだけでも辛いのに、ボロボロの廊下では毎晩、下着姿の老人がなぜか徘徊しており、うかうかトイレにもいけないのである。

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毎晩、下着姿の謎の老人が徘徊する廊下

(そもそもなぜこんな貧乏ゲストハウスに泊まっているんだという声が聞こえてきそうである。女性のひとり旅では宿泊地の治安の良さは絶対条件なのだが、ここニューヨークでは、治安の良い場所の宿泊費の水準が異様に高い。おまけに1ヶ月にも渡る長期旅行である。学生の経済力では、ここが精一杯なのであった。ちなみにこのゲストハウスは、アッパーウェストサイドという大変治安の良い場所に位置している。セントラル・パークの真横と観光にも大変便利なので、いろいろなことが気にならない人であれば、おすすめの宿である。)

医師である友人のアドバイスを受け、スポドリを飲みつつ、ただひたすらベッドに横たわっていた。思い出すのは家族や恋人がいる日本のことと、友人もでき、日差しもあたたかな、数日前まで滞在していたロサンゼルスのことばかりである。

 

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枕元のようす。ここで3日間寝込んでいた。

せっかくマンハッタンのど真ん中にいるのに、早くニューヨークから出たいという気持ちしかなかった。日本で当たり前のように身近にあったものがどれほど大切なものだったのかに、24歳にしてはじめて気がついたのだ。

数日間天井を眺めながら、風邪をひいたときに恋人がお粥をつくって食べさせてくれたことや、いつもそばにいる恋人のこと、日本食がたくさん売られている近所のスーパーのことを考えていた。

 

 近くにあるものの大切さについては、幼少期から現在に至るまで手を替え品を替え何百回も聞いてきたし、自分なりに理解しているつもりであった。でも異国の地で病に倒れてはじめて、本当に心の底から実感することができたのである。

薄暗く不気味なゲストハウスで、ベッドに横たわりながらそんな道徳の教科書のようなことを考えていた。

 

この経験のせいか、今でもニューヨークには苦手意識があるし、アメリカ周遊で思い出すのはロサンゼルスのことばかりである。

でもこの街からは、人生においてとても大切なことを教わった気がするのだ。